九月第三週 重陽を過ぎても蝉の声がやまず、縁側から差し込む西日が一層強く感じられる。白磁の湯呑みが残す円い輪染みを眺めながら、ゆっくりと煎茶をすする。 Sorry, Japanese only.

素人 × 『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』

2026-09-17・毎日の一枚

東洲斎写楽『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』
東洲斎写楽『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』(1794年)

老眼鏡を外して東洲斎写楽の『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』を眺めると、紙面から突き出た両手の不自然なまでの力みが目に飛び込んでくる。この見得を切る役者の異様なまでに広がった指先は、見る者の目を釘付けにする強い引力を持っている。いま検索の番付を覗いてみると、その二十六位には素人が十両の席にじっと座り込んでいる。役者の顔面を商品として切り取ったこの江戸の浮世絵と、あまたの無名の手による言葉がランキングの片隅で群れをなす有様は、どこか奇妙に重なり合っているように見えるとこじつけが過ぎるかもしれない。名前が刷られるだけで御の字の席にいる者たちのざわめきは、いつの時代も変わらぬ熱を帯びているものだ。名もなき者の営みこそが世の底を支える。

窓の外から聞こえてくる秋の蝉の微かな残響を背に受けながら、書斎の机に放置された湯呑みの輪染みをぼんやりと眺める。埃をかぶった古びた名画集をそっと手に取り、次のページを繰る暇だけが隠居の特権なのだ。

作品情報:東洲斎写楽『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』 1794年・大判錦絵・東京国立博物館ほか所蔵。画像:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

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教授の名画集(準備中)毎日の一枚をまとめた画集。